速報1「難民問題と現地情報 ―ハンガリー政府の決断―」


2015年9月4日21時、ハンガリー政府は「非常事態としてオーストリア国境へ向かうバスを100台出す」ことを決定し、その後ブダペスト東駅にバスが続々と到着しました。

座席を確保するため急いでバスに乗り込む人々

座席を確保するため急いでバスに乗り込む人々

そのバスに乗り込む人々が取材中の私に片言の英語で
「これは本当にオーストリアへ向かうのか」
という質問を頻繁に投げかけてきました。

私はこの質問を聞く度に、彼らがブダペストへ辿り着くまでの間、国や人を「信用 する」ことが大変困難な状況に追い込まれてきたことを痛感しました。

「このバスはオーストリアとの国境に向かいます」(移動中の安全確保のため)、

「バスの中で座ってください」

と必死に呼び掛けるハンガリー人たちの姿も見られました。

しかし、逃げてきた人々はその呼びかけを理解できず、現地の警察やボランティアの人々に向かって

「No Hungary, Yes Germany (ハンガリーは嫌だ、ドイツへ行きたい)」

と、あちこちから同じ言葉をぶつけてきました。

彼らのほとんどが英語を全く理解できず、難民とハンガリーの警察、ボランティア双方の意思疎通が容易でなかったのは言うまでもありません。
彼らは長旅の疲労や情報の欠如から、苛立ちが募っていました。

ハンガリーの警察も夜通しの警備に加え、問いかけても彼らに理解すらしてもらえないことへの苛立ちが目立つようになり、バスが到着するまでの間、ブダペストの東駅構内はすさまじい緊迫感に覆われていました。

現地ブダペスト市内に暮らす私は、いつ彼らによる暴動が起きるかという不安を抱いていましたが、難民を乗せるバスが動き出したことで、その空気は一変しました。

バスの窓から
「THANK YOU HUNGARY」
と叫ぶ声が響き渡り、見送る人々に手を振る姿さえも見られたのです。

バス出発前のブダペスト東駅地下通路、写真3バス出発から 1 週間後のブダペスト東駅地下通路

バス出発前のブダペスト東駅地下通路


バス出発から 1 週間後のブダペスト東駅地下通路

バス出発から 1 週間後のブダペスト東駅地下通路

その後、私たち取材陣はバスを追いかけ、ハンガリーとの国境近くにあるオーストリアのニッケルスドルフという町に向かいました。

その町にあるイベントホールは一時的に難民の支援施設となっていて、オーストリア国内から途絶えることなく支援物資が届けられていました。

その支援施設を取り仕切る女性は、
「これらの支援物資は、自主的にここへ送られてきているものばかりです」
と話してくれました。

オーストリアでこれほどまでに温かな支援を受けている難民たちが、

『ドイツへ行きたい』と言うことについてどう思うか、そのオーストリア人の女性に率直に質問してみました。
すると彼女は、
「彼らがドイツへ行きたい理由とは関係なく、今、私たちにできることはここで支援をしていくことだから」
と答えてくれました。 

ニッケルスドルフの支援施設を取り仕切る女性へのインタビュー

ニッケルスドルフの支援施設を取り仕切る女性へのインタビュー

さらに、ニッケルスドルフ駅(ウィーンへ向かう電車が出発する駅)へ向かう沿道では、その道を通る難民たちのために、自宅の塀の上に服などの支援物資を並べている家を発見しました。
その家主と直接話すことができ、家主へ
「なぜこのような個人支援をしているのですか」と問いかけたところ、
「私たちにできることをしていていきたいと考えているから」
と真剣な表情で答えてくれました。

2015年9月5日、ニッケルスドルフの駅でオーストリアのウィーン西駅へ向かう電車を待つ難民たち

2015年9月5日、ニッケルスドルフの駅でオーストリアのウィーン西駅へ向かう電車を待つ難民たち

ヨーロッパから遠く離れた日本に住む人々にとって、難民問題は遠い異国の地で起こっている出来事のように感じるかもしれません。

しかし、第3者だからこそ気付くことのできる、「私たちにできること」をすべき時が訪れたのではないでしょうか。


取材・文・撮影:フィノマガジン編集部 武田友里


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大阪生まれの大阪育ち。神戸大学で人間行動学を専攻。中学校・高等学校1種免許(保健体育)、小学校専修免許状を所持し、子どものスポーツ教育に従事。その後、ハンガリーへ渡りブダペスト メトロポリタン大学大学院でメディアコミュニケーション学を学ぶ。現在もブダペスト在住。FinoMagazinライターの傍ら、ロケーションコーディネーター、ウエディングフォトプランナーとしても活動中。ハンガリー情報はお任せあれ。英語、ドイツ語もOK!! 日本拳法で全国制覇の経験もあり、心身の強さには自信アリ。知力・体力を磨いて、世界の現場から日本の教育にアイデアを届けることをモットーに、様々な分野で執筆に励む。

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