ハンガリーの愛情と魂が込められた、彩りあふれる美しい2大刺繍


一度は着てみたくなる、ハンガリーの民族衣装。

2月13日掲載の「ハンガリーのオシャレでかわいい民族衣装」に引き続き、フィノマガジン読者の皆様をハンガリーの首都ブダペストにある世界有数の民族博物館 ( Néprajzi Múzeum ) へお連れします。

今回は、ハンガリーが世界に誇る刺繍文化を受け継ぐカロチャマチョーの地域を中心に民族博物館内を観ていきましょう♪

©2016FinoMagazin民族博物館 ( Néprajzi Múzeum )

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女性たちのささやかな楽しみを紡いだカロチャ刺繍

©2016FinoMagazin

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ハンガリーの首都ブダペストにあるPest megye※ (ペシュトメジェ) 。

この県の南部に位置する Bács-Kiskun megye  ( バーチ キシュクン ) の中に、 Kalocsa ( カロチャ ) と呼ばれる地域があります。

この場所で150 年以上もの時を経ながら、代々、受け継がれてきた伝統工芸品、それが『カロチャ刺繍』なのです。

※megye (メジェ) は日本でいうところの都道府県を意味します。

白い木綿やレースに色とりどりの花やカロチャの名産品『パプリカ』が描かれたカロチャ刺繍は現在、最も人気の高いハンガリー独自の民芸品として、世界中の人々から愛されています。

世界中で「カロチャ刺繍」としてイメージされているのは、おそらく上の写真のようなカラフルなデザインでしょう。

現在は、とても鮮やかなカロチャ刺繍ですが、実は昔、白い布に白い糸で刺繍したシンプルなものだったことをフィノマガジン読者の皆様はご存知ですか?

 

白い布に白い糸、それが『カロチャ』のはじまり

©2016FinoMagazin かつてのカロチャ刺繍イメージ 

©2016FinoMagazin かつてのカロチャ刺繍イメージ

今から遡ること150年以上。

1860年代に、Szeidler (セイドレル) 家の女性たちによって生み出された家庭の刺繍が、現在のカロチャ刺繍の起源だったと言われています。

今ではハンガリーの伝統工芸の一つですが、実際は、一般家庭の女性たちによって代々受け継がれてきた文化。

この当時は、染色技術が未発達だったこともあり、白糸で刺繍されただけのシンプルなカットワークがカロチャの女性たちの間で流行っていたそうです。

 

『カロチャ』に刺激を受け、彩り豊かになった壁絵たち

©2016FinoMagazin 昔のカロチャ刺繍

©2016FinoMagazin 昔のカロチャ刺繍

その後、20年の時を経て、1880年代に白糸だけでなく黒や青、赤、紫などの色が加わり、少しずつカラフルな刺繍に変化していきました。

ちょうど同じ頃の1882年、カロチャ周辺地域の家の壁に彩り豊かな絵が描かれ始め、壁絵のデザインは、現在のカロチャ刺繍と相互に影響し合っていたと記録されています。

今でもカロチャには、カラフルな花の絵が壁一面に描かれた民芸の家が残っているのですが、この時代のある女性が、この鮮やかなカロチャの壁絵と刺繍のデザインを手がけていたんだとか。

19世紀後半には、緑や黄色、ワインレッドなどの色も加わり、カロチャ刺繍のモチーフである花のボリュームも増していきました。

1920年代の終わりになると、カロチャ刺繍には Cifra Kalocsai (チフラ カロチャイ) と呼ばれる32種類の色が使われるようになり、刺繍も布全体にほどこされ、より派手なカロチャ刺繍の形になっていったようです。

 

ハンガリーならではの『カロチャ』ファッション

©2016Finomagazin カロチャ刺繍がほどこされた現代の衣装

©2016Finomagazin カロチャ刺繍がほどこされた現代の衣装

カロチャ刺繍が世間から注目されるようになり、ハンガリー独自の民芸品としてその価値が人々に認められるようになりました。

カロチャのデザインは今日、刺繍や壁絵だけでなく、家具や陶器などにも数多く用いられています。

当時のカロチャの女性たちは、特別な日にブラウスやスカートの上から、美しいカロチャ刺繍が施されたエプロンなどを身につけて、オシャレすることが、日常のささやかな喜びだったそうですよ♪

 


 

200年受け継がれてきた伝統の技、マチョー刺繍

©2016FinoMagazin 1900年頃のMatyó ( マチョー )の民族衣装を着た若い夫婦

©2016FinoMagazin 1900年頃のMatyó ( マチョー )の民族衣装を着た若い夫婦

ハンガリー東部に位置するBorsod-Abaúj-Zemplén megye ( ボルショド・アバウーイ・ゼンプレーン ) にあるMatyó ( マチョー ) という地域。

この場所では200年もの間、『マチョー刺繍』と呼ばれる伝統芸術がマチョー族の人々に受け継がれてきました。

カロチャ刺繍は、“女性たちの日常の楽しみ”から生まれ、母から娘へと受け継がれてきたのに対して、マチョー刺繍は、“マチョー民族の人々に継承されてきた伝統芸術”です。

2012年にユネスコ無形文化遺産に登録されたハンガリーのマチョー刺繍。

翌年の2013年にはHungarikum ( フンガリクム ) にも指定されました。

※2012年7月1日にハンガリー政府による『Hungarikum ( フンガリクム ) 委員会』が発足。フンガリクム委員会によって選ばれた人や物、文化、習慣、行事は、ハンガリーを代表する価値のあるものとして登録されます。

世界の遺産として認められているマチョー刺繍ですが、カロチャ刺繍と混同されることもしばしば。

では、その違いをビジュアル的に解説していきましょう。

 


 

ビジュアルでわかる!“カロチャ”と“マチョー”、3つの見分け方

©2016FinoMagazin マチョー刺繍とカロチャ刺繍がほどこされた現代の衣装

©2016FinoMagazin マチョー刺繍とカロチャ刺繍がほどこされた現代の衣装


見分け方 ①  モチーフ

出典:Wikipedia  Pünkösdi rózsa ( プンクシュディ ロージャ )、別名Bazsarózsa ( バジャロージャ )

出典:Wikipedia  Pünkösdi rózsa ( プンクシュディ ロージャ )、別名Bazsarózsa ( バジャロージャ )

マチョー刺繍では、ハンガリーで神聖な花として尊ばれている『 Pünkösdi rózsa (プンクシュディ ロージャ) 』が主に描かれているのに対し、カロチャ刺繍では、カロチャの名産品であるパプリカがデザインされていることがよくあります。

この『 Pünkösdi rózsa ※(プンクシュディ ロージャ) 』がデザインされているかどうかが、マチョー刺繍の最重要ポイントです!!

プンクシュディ ロージャは、通称マチョーのバラと呼ばれており、日本語名は芍薬 (シャクヤク)。

見分け方② ベース

©2016FinoMagazin

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“マチョー”は黒い布に刺繍するのが多いのに対して、“カロチャ”刺繍は白い布が基本です。

また、カロチャ刺繍は、レース状に仕立てられたものが多いのも特長ですよ。


 

見分け方③ 絵柄の濃密さ

©日本ハンガリーメディアート 白布にほどこされたマチョー刺繍

©日本ハンガリーメディアート 白布にほどこされたマチョー刺繍

マチョー刺繍は上の写真のように、布が見えないぐらいぎっしりと細かく、彩り豊かな刺繍がほどこされています。


 

ハンガリーが世界に誇る2大刺繍、『カロチャ』と『マチョー』。

違いは一見わかりにくいのですが、比べてみるとカロチャ刺繍もマチョー刺繍も各々に特徴がありますよね!!

家庭の中で紡がれ続けてきた愛情溢れたカロチャ刺繍、伝統の技とマチョー族の魂が詰まったマチョー刺繍。

ハンガリーにご旅行の際は、ぜひ一度、本物を手にとって、その美しさと歴史の重みを感じてみてください。

次回は、マチョーの地方に伝わる伝説やマチョー刺繍誕生秘話をお届けしますので、お楽しみに♪


 

取材・一部写真・文/武田友里 ( Takeda Yuri )


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大阪生まれの大阪育ち。神戸大学で人間行動学を専攻。中学校・高等学校1種免許(保健体育)、小学校専修免許状を所持し、子どものスポーツ教育に従事。その後、ハンガリーへ渡りブダペスト メトロポリタン大学大学院でメディアコミュニケーション学を学ぶ。現在もブダペスト在住。FinoMagazinライターの傍ら、ロケーションコーディネーター、ウエディングフォトプランナーとしても活動中。ハンガリー情報はお任せあれ。英語、ドイツ語もOK!! 日本拳法で全国制覇の経験もあり、心身の強さには自信アリ。知力・体力を磨いて、世界の現場から日本の教育にアイデアを届けることをモットーに、様々な分野で執筆に励む。

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