映画『人生に乾杯!』を観て、ハンガリーの逞しさを知る!


みなさん、初めまして。
ヨーロッパ映画を中心に映画のご紹介をさせて頂く、フリーアナウンサーの石田芳恵です。

5月16日は沖縄・奄美地方で梅雨入りが発表されましたね。
今年は、日本各地で例年よりも梅雨入りが早い予想のようです。

雨の日の多いこの季節、お部屋で映画鑑賞はいかがでしょうか?
そこで今回は、心がほっこり温かくなって、ハンガリーの社会情勢もわかる映画・『人生に乾杯!』をご紹介します。

 

ハンガリー映画『人生に乾杯!』は、ハンガリーの知識があればもっと楽しめる!

人生に乾杯! - 作品 - Yahoo!映画

画像出典元:(C)M&M Films Ltd.人生に乾杯! – 作品 – Yahoo!映画

 

ハンガリーでは2007年、日本では2009年に公開されたので、すでにご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんね。

私はこの映画を観て、「ハンガリーにこんなに優しくておしゃれな映画があるなんて!もっとハンガリーの映画が観てみたい」と思ったものです。

当時はハンガリーの社会情勢などそれほど知らずに観た私。
「ハンガリーのことをもっと知っていれば、この映画をもっと楽しめたのに!」という後悔もありました。

この記事が、これから初めてご覧になる方や、再び鑑賞される方に参考になれば幸いです。

 

ハンガリーの老夫婦が、社会に不満を爆発させて強盗犯に?

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画像出典元:(C)M&M Films Ltd.人生に乾杯!|映画情報のぴあ映画生活

 

主人公は、年金だけでは暮らしていけなくなったハンガリーの老夫婦。
高齢者に冷たい世間に怒りを覚えて取った行動は、なんと銃を片手に愛車で強盗!

2人は次々と強盗を重ねます。
彼らの行動(犯罪ですが)は、社会保障制度に不満をもつ国民から同情を集め、共感する老人も多く、模倣犯まで現れてきます。

軽やかに逃げ続ける強盗夫婦。
さて、夫婦は警察から逃げ切れるのか?
というストーリー。
日本の予告編では、「ヨーロッパの小さな国で、81歳と70歳の夫婦が立ち上がった?」というキャッチコピーでした。

しかし、「ヨーロッパの小さな国」という、漠然とした認識で観るよりも、「ハンガリー」という国が舞台、ということを踏まえての鑑賞がおすすめです!

ハンガリーの歴史的背景と社会状況の知識があると、この映画の素晴らしさ・美しさ・ほろ苦さが、より深く味わえます。

 

ハンガリーのイデオロギーの転換と、「海を見てみたかった」妻

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画像出典元:Filmtett – Erdélyi Filmes Portál

 

映画をより理解する上で、ハンガリーの政治の変遷もとても大切な要素となっています。

ハンガリーは第2次世界大戦後ソ連の影響下に置かれたため、社会主義国でした。

その後、ハンガリー動乱を経て、市場経済が導入され、1980年代には民主化が加速。
ソ連が崩壊してからは資本主義へと体制転換し、経済成長を遂げていきます。

ところが、貧富の差や失業率の増加など、そのような社会問題は現在も山積のようです。
つまり、この映画は、ハンガリーの高齢者問題、年金問題、医療・介護問題も背景にあるのです。

主人公の夫婦が出会った1950年代後半は、ハンガリー社会主義下にあった時代。
それから50年。現代の高齢者は、政治的イデオロギーや国際政治に翻弄されたとも言える世代でしょう。
苦労が報われない老人たちのフラストレーションが、映画でも各所で描かれています。

そして、印象的なのは70歳の妻が逃避行中につぶやく一言。

「人生の心残りがひとつだけあるわ、海を見てみたかった」。

これも、ハンガリーが他国に囲まれ、海に接していない国だから。

妻は70年間どのような思いで海に憧れていたのか?
海に囲まれている日本人には計り知れない思いがあることでしょう。

そして、憧れの「海」も映画のキーワードのひとつ。
妻が海を見ることができるかどうか、ということも念頭に、映画をご覧になってくださいね。

 

原題とサブタイトルが、なかなか意味深でオシャレ!

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画像出典元:Filmtett – Erdélyi Filmes Portál

 

日本では、『人生に乾杯!』という邦題で公開されたこの映画。

「ヨーロッパの小さな国」の老夫婦が起こす逃走劇は、涙あり笑いありで、この邦題はぴったりだと感じました。

しかし、ハンガリーの社会的背景を考慮すると、原題がなかなかオシャレに感じられます。

原題は、『Konyec – Az utolsó csekk a pohárban』

「Konyec」はロシア語に由来し、「おしまい」という意味だそうです。
そして、続くサブタイトルの「Az utolsó csekk a pohárban」は、「コップの中の最後の一滴」という意味。

「さあ、人生の最終章。でも、空っぽではないぞ。

コップの中には何が残っている?」

紅茶は、ポットの最後の一滴がいちばん美味しいとも言われます。

はたして、人生の最後の一滴はどんなお味?
と問いかけているような、そんな映画です。

さらに、逃走劇と並行して、物語の中では生命の誕生や死も描かれています。
世代から世代への「いのち」のリレーが、ひとつの大きな軸になっているのです。

俯瞰すると「おしまい」ではなく、人生は「つづく」なのかもしれません。
題名からそこまで考えさせられるとは、なかなかオシャレな原題です。

そして、この映画のラストは、まさしく映画の醍醐味。

ああ、初めて『人生に乾杯!』を観る人たちがうらやましい。あの驚きと感動をこれから味わえるのだから。
そして、2度目、3度目の鑑賞となる方々。

今度はハンガリーの社会保障などを念頭にご覧になるといかがでしょう。
この国の大変さだけでなく、ハンガリーの「逞しさ」をもっと感じられると思いますよ。

みなさん、映画で素敵な人生を!


 

【映画情報】
 『人生に乾杯!』(C)M&M Films Ltd.
 監督:ガーボル・ロホニ
 出演:エミル・ケレシュ テリ・フェルディ
 公開:2007年ハンガリー 2009年日本
 時間:107分


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