映画『さとにきたらええやん』、あなたにも居場所が必ずあるということ


こんにちは、フリーアナウンサーの石田芳恵です。
ずいぶんと日が長くなってきましたね。

夏が近づき、太陽の沈む時間が遅くなってくるこの時期、学校からまっすぐ家に帰らずに、親に内緒でちょっと寄り道をすることもありました。
学校でも家庭でもない場所だからこそ、ワクワクしたりホッとしたりする、そして言えないことが言えたりするような、そんな不思議な場所って、ありましたよね。

こどもでもおとなでも、学校や職場、家庭で行き詰ったときに、ふらりと寄れるような別の「居場所」って必要なのかもしれません。

今回は、そんな「居場所」をめぐるドキュメンタリー映画、『さとにきたらええやん』のご紹介です。

 

舞台は大阪市西成区釜ヶ崎、「日雇い労働者のまち」

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『さとにきたらええやん』(C)ガーラフィルム/ノンデライコ

 

舞台の大阪市西成区釜ヶ崎は、日雇い労働者向けの簡易宿泊所が集まるエリア。
「あいりん地区」とも呼ばれている場所では、近年、不況や労働者の高齢化などから、路上生活者や生活保護に関する問題なども山積しています。

 

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『さとにきたらええやん』(C)ガーラフィルム/ノンデライコ

 

タイトル『さとにきたらええやん』の「さと」とは、その釜ヶ崎にある「こどもの里」のこと。
ここは、障がいの有無や国籍に関係なく誰でも利用でき、0歳から20歳くらいのこどもたちの遊び場であり、おとなの休む場所であり、生活相談・教育相談も受付けていて、緊急宿泊もできます、土・日・祝もやっていて、利用料はいりません、という場所です。

驚くことに、「さと」は行政主導の施設ではありません。
行政から補助金を受けつつも、大半は寄付などで運営されている民間の施設です。

「こどもが好き」で、「こどもの居場所を守りたい」という一心で、40年近く施設が成り立っていることに、私は驚きを超えて不思議にさえ感じました。
以前から日本では、こどもへの支援や居場所づくりに関して、必要にかられて市民の側から作り出されてきたという背景があり、行政はほとんど後手に回っているというのが現状のようです。

映画では、釜ヶ崎のこの「こどもの里」を舞台に、しんどさを抱えながらも全力で生きるこどもたちと、彼らと真正面から向き合うおとなたちの姿を、カメラが穏やかに捉えています。

 

夜回りをする「さと」のこどもたち

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『さとにきたらええやん』(C)ガーラフィルム/ノンデライコ

 

釜ヶ崎は日雇い労働者が多いことから、不況やケガでホームレスにならざるをえない事情を抱えた人たちがたくさん存在しています。
そして、その釜ヶ崎に暮らし、「さと」を利用するこどもたちの中には、複雑な家庭事情を抱えている子も少なくはありません。
そんな彼らが、夜に釜ヶ崎のまちを見回り、ホームレスの方々に声をかけていくシーンがとても印象的でした。

「最近どうですか」「寒さに気をつけてください」と声がけをするこどもたちに、ホームレスの方々が返す言葉は、照れくささがありながらも喜びも画面から伝わってきます。
こどもたちの感受性はすごい。
こどもたちは、ホームレスの状況を肌で感じ、それぞれの心で捉えています。

ホームレスや貧困の本質を、彼らなりに理解しているようでした。
こどもたちもホームレスの方々も同じ釜ヶ崎の人間であり、釜ヶ崎という同じ居場所にいるんだということが、こどもたちの言葉や行動に素直にあらわれていたのです。

それは、こどもたちが自然と地域をつないでいる光景でした。
「地域でこどもを育てよう」とよく言われますが、もしかしたら、「こどもたちが地域を結びつけてくれている」のかもしれません。

 

 

境界線のないドキュメンタリー。あなたもいつの間にか「さと」の一員になっている

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『さとにきたらええやん』(C)ガーラフィルム/ノンデライコ

 

貧困やこどもの問題を扱ったドキュメンタリーやフィクションの数多くが、現状の悲惨さや過酷さにフォーカスしていますが、この『さとにきたらええやん』はちょっと違います。

「おもしろいところがあるよ。
ちょっとここなら行けるかもって思うよ。
ほら、けっこう楽しそうでしょ。
すごく明るくて、元気な子たちがいっぱいでしょ。
学校に行きたくなかったら、親とケンカしたら、子育てに行き詰ったら、こどもを預かってくれる人がいないのなら、そうそう、『さとにきたらええやん』」

映画の中からそう話しかけられているような、ほどよいゆるさがありました。
スクリーンと観客席の間にも、「さと」と同じように、境界線や垣根は感じられないのです。

 

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『さとにきたらええやん』(C)ガーラフィルム/ノンデライコ

また、この映画にはナレーションやテロップでの説明がありません。
説明が少なかったからこそ、私は釜ヶ崎を初めて訪れているような驚きと戸惑いを全身で感じました。
次第に、「さと」に私も自然と受け入れられたような気持ちで映画に入り込み、いつの間にか、こどもたちの毎日にハラハラし、そして彼らの生命力に魅了されていったのです。

映画が終わったとき、心が明るく満たされる一方で、一抹の寂しさもありました。
たぶん、私はいつの間にか「さと」の一員になっていて、もっと映画の中の「さと」に居たかったのかもしれません。

 

 

あなたにも必ず、居場所がある

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『さとにきたらええやん』(C)ガーラフィルム/ノンデライコ

 

さて、私たちの周りにこのような場所は、学校や職場、家庭のほかにどれくらいあるでしょうか。

生きていると、しんどいことってありますよね。
もし読者の中にしんどさや辛さを抱えている方がいたら、この映画から力をもらった私は声を大にしてお伝えできます。

「あなたの居場所は絶対にある。
今の場所がそうでないだけ。
必ずあなたを受け入れてくれる場所がある。
だから、いろんな人に出会ってほしい」と。

1人で背追い込まず、そして自分を追い込まずに、「居場所」で心をほぐしてほしい。
もっと「さと」のような場所が増えると、誰もがもう少し生きやすくなるのではないでしょうか。
そして、できるならば「さと」のように、境界線なく人を受け入れて寄り添えるような、そんな心のスペースをもてることができたらと思います。

人生、お互いさまですよね。
「さと」のような場所、「さと」のような人が、少しでも増えたらと願ってやみません。

『さとにきたらええやん』は、貧困問題にとどまらず、私たちに普遍的な問いかけをしてくれることでしょう。

皆さん、映画で素敵な人生を!

 

 

【映画情報】
『さとにきたらええやん』
監督:重江良樹
出演:釜ヶ崎のこどもたち
音楽:SHINGO★西成
製作国:日本(2015年)
公開:日本(2016年6月11日〜全国で順次公開予定)
時間:100分
オフシャルサイト:http://www.sato-eeyan.com


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