反難民『98%』、投票率約43% 。 国民投票不成立でも強気なオルバン政権、ハンガリーとEUの行末はいかに?


2016年10月2日(日)、ハンガリーではEUによる難民割当て受入れの是非を問う国民投票が行われました。

EU加盟国はもちろん、世界中から大きな関心を寄せられていた、ハンガリーの“国民投票”。
開票の結果、有効投票の98%が難民割当て受入れへの反対票であったことが判明しました。
つまり、ハンガリーの有権者は“No Migrant”を選択し、EU(欧州委員会)による“難民割当て受入れ”決定に対して、『No』という答えを突きつけたのです。


有効投票の98%が“反難民”、ハンガリーが考える『No Migrants』な理由とは?

©Index - Belföld - Megkezdődött a kvótanépszavazás - Percről percre

©Index – Belföld – Megkezdődött a kvótanépszavazás – Percről percre

国民投票が行われた10月2日(日)、午前11時時点の投票率は約7.25%。
この数字は、過去20年間に遡るハンガリーの国政選挙の投票率と比較してもかなり低調でした。

有効投票の98%が『No Migrant』であったにも関わらず、投票率が50%以上(過半数)に届かないという不思議な現象が起こったのです。
過半数に達しなかったことで国民投票は不成立、無効となりましたが、この結果にはどのような意味があるのでしょうか?

『国民投票不成立。この結果は、オルバン(政権)に対する不信任の表れだ』。

国民投票無効の結果を受けて、野党第1党の社会党をはじめ、与党(フィデス=ハンガリー市民同盟)と同様に“反難民”姿勢を崩さない極右政党「ヨッビク」ですら、オルバン政権に退陣を要求しました。

ですが、今回の国民投票は与党選択の選挙ではないので、そのような野党の追及もオルバン・ヴィクトル首相は全く意に介していません。
むしろ、有効投票の“98%”が“反難民”だと、その結果をオルバン政権は高らかに謳い、まるで勝利宣言のような強気な態度だったのです。

そして、10月4日には、国会の承認なしにEU(欧州委員会)が難民割当て受入れをハンガリーに強いることを禁じる憲法改正案を提出する方針を打ち出しました。

要するに、EUによるいかなる決定があろうとも、ハンガリーは国内の議会による承認がなければ難民の受け入れは一切しないというスタンスを崩さず、そのための憲法改正に踏み切ろうとしたのです。

日本人の私達からすると、“憲法改正”という言葉はまるで聖域のような感覚で、その話題に触れるだけでも時の政権が交代しかねないほど、未だに大変ナーバスな問題ですよね。※1
そんな日本人が捉える憲法の重みとは対照的に、ハンガリーの現行憲法“ハンガリー基本法”は、東日本大震災の年である2011年に可決、翌2012年に施行と、とても歴史が浅いものです。
(ちなみにその際、国名もハンガリー共和国からシンプルに“ハンガリー”と変わりましたが)。

※1…1947年(昭和22年)の施行から今日まで、日本の(昭和)現行憲法は一度たりとも改正されたことがありません。

過半数には達しなかったものの、“98%”=ほぼ100%の有効投票が『No Migrant』であった結果を、そして、貴重な1票を投じたハンガリーの有権者の声を、EU側はしっかりと受け止めるべき、だと思います。

それでもEU側の本音としては、今回の結果にかなり安堵していることでしょう。
もし、ハンガリーで国民投票が成立していたら、他のEU諸国にも多大な影響を与え、一斉に“No Migrant”へと舵を切る加盟国が続出したかもしれません。


ハンガリー国民が難民の受け入れを拒否する理由とは?

©FinoMagazin2016 Hungarian Kitchen

©FinoMagazin2016 Hungarian Kitchen

 

それは周知の通り、経済大国のドイツ※2を目指し、シリアやアフガニスタンから逃れてきた難民や“経済”移民の中に、ISIL※3の戦闘員が紛れていないか怖れているため。

つまり、ハンガリー国内に非道なテロリスト達が次々と潜伏し、甚大な被害を引き起こさないか危険視しているためですよね。

2016年の現在、約990万人と人口数が1000万人にも満たない欧州の小国(ハンガリー)に、大勢の難民がドッと押し寄せたら?
その中にテロリスト達も多数、紛れていたら?

と、ハンガリー国民が治安の悪化や母国の危機を憂うのは当然のことでしょう。

※2…EU内で最も難民受け入れに寛容姿勢だったのはドイツ。
※3…ISILはIslamic State in Iraq and the Levantの略。

そして、もうひとつ。
ハンガリー国民が『No Migrants』である、大きな理由があります。

オルバン政権もといハンガリー国民は、“難民危機”に対するEU(ブリュッセル)の対応に大きな不満を抱いています。
ハンガリー側から見れば、国境管理の厳格化に消極的かつ不十分な対応しかとらないEU(ブリュッセル)こそが、不法移民の問題も増大させたと思っているからです。

紛争が激しい母国から一命をとりとめて必死に亡命してきた本当の難民の方々には、ハンガリーの(難民達をハンガリーを通過させない)行為は許せないものがあるでしょう。
とはいえど、真に守られるべき難民の方々に混ざって、不法移民が多いのも現実なのです。

現在、EU内に入りたい難民や不法移民の玄関口となっているハンガリーは、この問題で最も負担を強いられているEU加盟国と言っても過言ではありません。
『Migrants』にとってEUの玄関口となってしまったがために、日々、軍や警察を大動員し、国境警備に当たらなければならない。
国境警備をさらに強化することは、EU加盟国の中では最も経済的弱者の小国ハンガリーにとって大変な負担増なのです。


国民世論は“反難民”で一致するのに、投票率が低かったのはナゼ?

©FinoMagazin Pest Area

©FinoMagazin Pest Area

 

そうした現実から、ハンガリーがセルビアとの国境に頑強なフェンスを作るのは至極当然と、政権だけでなく多くの国民がそのように考えています。

“欧州全体を覆う『難民危機』。この大問題に対するEUの対応はまるで信頼できない。だからこそ、自力で国境を守り、不法移民にルールを守らせねば”。

オルバン政権のEUに対する主張を簡潔にお伝えすると、上記のような意見です。
よって、隣国との国境沿いに屈強なフェンスを築くのは極めて当然という論理なのですね。

こうした経緯や理由から、ハンガリー国民が難民受け入れを拒否する心情は、(海に囲まれ、地続きの大陸育ちではない)日本人の筆者でも理解できます。

ところで、今回の国民投票ではどうして投票率が43.35%と低調だったのでしょうか?

“過半数以上の有権者が投票所に足を運ばなかった理由はナゼなのか?”

その部分は気になるところですよね。
投票率が過半数に達しなかった背景のひとつに、投票日の直前まで野党やNGO団体などが国民に対して棄権するよう呼びかけた抗議デモの影響が考えられます。

野党の主張や、多くの国民の目に映るオルバン政権の政治手法。
それは、与党にとって都合の良い政策や法案は、数の論理で強引に議会で可決→承認の流れへ持っていき、いつの間にか施行するという、かなり強権的な手法です。

そして、過半数以上の有権者が投票所に足を運びたくなかった主な理由。
それは、この国民投票のためだけに、オルバン政権は事前の大掛かりなキャンペーン費用も含めて総額200億Ft.※4近くの巨額な予算(税金)を投入したことが原因です。

※4…国民投票実施に費やした公的資金は、日本円換算にして約76億円弱。人口1000万人未満でサラリーマンの平均年収が約100万円(日本円換算)でしかないハンガリーでは、相当巨額な予算となります。

人口1000万に満たないハンガリーで、このように莫大な国家予算を費やしてまで、なぜ国民投票を実施しなければならないのか。

“いつもは国民に問いかけることもせず、与党にとって都合の良い法案をさっさと議会で通してしまうくせに”。
“失業対策や国内のインフラまわりでも課題は山積で、福祉にもまったく税金が正しく使われていない”。※5

政権が決定する税金の使途に対して怒りを覚えた有権者の多くが、投票所に足を運ばない=棄権という選択をしました。
今回の低投票率には、現政権の国政に対する不満や失望が根底にあったのです。

このような、過半数に届かなかった真の理由が、国際的なニュースではあまり報道されていないように見受けられます。

 


強気なオルバン政権、ハンガリーとEUの関係はいかに?

©FinoMagazin2016 ハンガリーの国会議事堂 ドナウ川からの眺め

©FinoMagazin2016 ハンガリーの国会議事堂 ドナウ川からの眺め

国民投票の結果を受け勝利宣言をしたハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は、EU指導者らに対しこの結果に関心を払うよう求め、10月4日にはハンガリー憲法を修正し結果が拘束力を持つようにすると語りました。

同日4日、ハンガリーの隣国セルビアには西欧を目指しハンガリー入りを待つ難民数百人が集結。

セルビア・ハンガリー国境の開放を求め、セルビア首都ベオグラードのキャンプから約200kmも離れた国境に向かってデモ行進を始めたのです。

 彼らはハンガリーの国民投票の結果を受け、ハンガリーに猛抗議をしています。

『We Don’t Need Food, Water or Nothing』

『We Want  U to Open the Border』

と書いた紙を掲げて、自分たち(難民)を受け入れるように求めました。


この夏、約6000人近い難民や移民たちが、ハンガリーの国境を前に立ち往生し、西欧を目指したい彼らにとっては苦難の日々が続いています。

そんななか、EU加盟国の中で真っ先に、(難民・移民受け入れ分担策の是非を問う)国民投票を実施したハンガリー。

イギリスのEU離脱、そして、今回のハンガリー国民投票。

この流れからいくと、EU(欧州委員会)に向けて、意思表示をする加盟国が次々と出現しそうです。
先にお伝えしたように、オルバン政権は投票日の翌日、憲法改正案を打ち出しましたが、このようなEUの決定を覆す憲法改正を行うことは「EU法違反の可能性」を指摘する専門家もいます。

ハンガリーとEUの対立はますます深まっていくのか、それともハンガリーに同調する加盟国が増えていくのか。
ハンガリー首都ブダペストから配信を続けるFinoMagazinでも、ハンガリーとEUの関係について、今後も注視していきたいと思います。


※5…オルバン政権が強行に進めた増税策の一例。

★2014年ネット税導入計画を推進→同年11月国内最大規模のデモに発展。

2014年オルバン政権は、インターネットを使用する個人と法人にそれぞれ税率を課す法案の導入を計画。
個人には月2.89ドル、法人に月20.64ドルを課税の予定であったものの、特に若者世代から大きな反発を受け、ハンガリー国内でも最大規模の抗議デモへと発展し、オルバン政権に退陣を迫る批判の声が増大。その結果、ネット税導入は見送りとなりました。

★消費税率27%と、ハンガリーは世界一、税率が高額な国。

世界位置、消費税が高い国として知られるハンガリー。世界一、国民達は増税されているものの、福祉など暮らしに対する恩恵が最も低く、政権による税金の使途に対し不満を抱く国民がほとんどであるのもこの国の現状です。ハンガリーは『生活満足度ランキングOECD加盟国』調査の中で最下位という結果も判明しています。汚職スキャンダルも多く、若い世代は特に、他のEU諸国での就職を希望する者が多く、約990万人と大変人口数が少ないものの、公務員の多さが目立つなど、増税→財政難という悪循環な経済状況が続いていいます。

 


author-avatar

ブダペスト在住ワイン(とインテリア)コラムニスト。フィノマガジン主宰。ワインアドバイザー(Wine & Spirits Education Trust認定Higher Certificate)。現在はオーストリアのWSETでDiplomaコースに通い、MWの夢をいまだ捨てきれず勉強継続中。大手食品メーカー、ワインインポーターの社員として勤務後、広告業界へ。元博報堂グループ(広告代理店)コピーライター、ディレクター(AD & WEB)、プロモーション・プランナー。現在は出版社や雑誌社をはじめ、さまざまな媒体で執筆業を中心に活動。◎受賞歴: J-wave主催Webビジネス開業支援コンテスト特別賞受賞(企画書制作部門)◎メディア出演歴:湘南ビーチFM(ラジオ局)“ワインのお話”メインレギュラー(約2年)。2016年: amebaTV、abemaNews、ハンガリーのネイル製品ブランドMoyra(モイラ)の日本部門【Moyra Japan】代表。

No Replies to "反難民『98%』、投票率約43% 。 国民投票不成立でも強気なオルバン政権、ハンガリーとEUの行末はいかに?"