ハンガリーワイナリー探訪 小さな丘の極上・白ワイン “サバーワイナリー/ Sabar Borház



ブダペストはここ数日、粉雪が舞う日々が続いています。
気がつけばもうすぐ年の瀬と、一年が過ぎるのはあっという間ですね。

ちょっと前の話しになりますが、10月の中旬、筆者はバラトン湖付近の白ワイン名産地“バダチョニ/Badacsony”にある、某ワイナリーを訪ねてきました。


SABARという名の、小さな丘に佇むワイナリー

ブダペストから車をとばして3時間ほど。
バダチョニはハンガリーの中でも最も古い歴史を持つ、白ワインの名産地。

実は古代ローマ帝国時代から、ワイン造りのための葡萄栽培が始まっていた地域なんです。

5大シャトー、グラン・ヴァンを有するボルドーワインや、一般人には到底手が出せない高額すぎるロマネ・コンティを産出するブルゴーニュワインよりも!
実はワイン造りの歴史が古いという驚きのエピソードを持つ、ハンガリーのバダチョニ・エリア。

そんなバダチョニにある、カープタラントーティ(Káptalantóti)という村にほど近い小さな丘、それがSabar Hill(サバーの丘)です。
Sabarの丘に静かにたたずむサバー・ワイナリー/Sabar Borház 。

この日は終日、サバー・ワイナリーのオーナー、ガボール・アダム氏にお話を伺いながら、ご自身のワイナリーとワインショップ、そしてバダチョニ一帯を案内していただくことに。

筆者が訪れた10月中旬のこの日は、まるで夏日のように陽射しが強く、蒸し暑かったのが印象的です。
ワインハウスのおもてには、テイスティングやランチ、ディナーも楽しめる、雰囲気の良いウッディテラスがありました。


ハンガリー原産のオラスリズリングはすっきりクリアな味わい

ワインセラーを拝見する前に、ワインハウス/Borházの手前にあるテラスで、“SABAR”ワインのテイスティングを一通りさせて頂くことに。

最初に試飲したのは、

Olaszrizling Hegybor 2015/オラスリズリング・へギボル。

アロマに白い花やシトラスの香りを感じ、アタックはやや強く、シャルドネを思わせる、すっきりとクリアな余韻が印象的な白ワイン。

ブルゴーニュのシャルドネを思い出すような、爽やかな味わいでした。

このオラスリズリングは、ハンガリーのオリジナル葡萄品種。
SABARワイナリーで栽培されるオラスリズリング(葡萄品種)は、チョバンズ・ヒルとバーチ・ヒルという、2つの丘で栽培されていたものだそう。

2015年(Vintage)はハンガリーでは当たり年だったようで、Sabarワイナリーのラインナップの中でも大変人気がある白ワインです。
お刺身や寿司などのローフィッシュ、シーフード料理全般とマリアージュしたくなる、酸味もほど良いフレッシュなワインでした。


単一の葡萄畑から生まれる、格別の白・ケークニェリュ

次に試飲させていただいたのは、これもまたハンガリーオリジナルの葡萄品種、
ケークニェリュ/Kéknyeluが原料の辛口白ワイン。

Kéknyel“Kmagas”/ ケークニェリュ・クーマガシュ

チョバンツ・ヒル(丘)にある単一の葡萄畑から生まれる上質な白ワイン。

最初の香り=アロマの印象は、シトラス、バニラ、レモングラスと、とにかく爽やかかつフルーティ。
アタックは柔らかく、味わいがとてもマイルドで、フィネス※を感じることのできる極上の白ワインでした!

好みの問題かもしれませんが、個人的にはこのケークニェリュが同ワイナリーのラインナップの中でも最高に美味しかったです!

※フィネスはフランス語の「Finesse」、「Fine」に由来するワイン用語。「洗練」「繊細」「上質」を意味する。エレガントでバランスのとれた秀逸なワインを評する時によく用いられる。

1937年、MM.G.Yとは?謎の石碑が気になる

MMGY1937

試飲の途中、視線を左手にうつすと、

MM.G.Y 1937. VIII.30. FKY

と刻印された、不思議な石碑が目にとまりました。

オーナーのガボール氏に尋ねてみると、この石碑にはなんとも言えない辛い歴史があったのです。


SABAR の丘、ユダヤ人家族の存在

sabarhillkara

この石碑に刻印されたMM.G.Y、それはMondli Márton Györgyという人の名前で、それはこの石碑を建てたご本人でした。
Mondli Márton György氏とその家族は第二次世界大戦前、SABARヒルに暮らし、この地でワイナリーや果樹園、牧場を経営していたそうです。

ただ、彼らはみなユダヤ人だったため、第二次世界大戦の際にアウシュビッツへ強制送還されてしまいました。

Mondli Márton György氏はおそらく、二度とこの地に戻れないと悟り、死を覚悟して愛する場所に自身の名を刻んだ石碑を建てたのでしょう。
第二次世界大戦後、彼らユダヤ人一族の中で生きのびることができた人達が少しずつ、この地に戻りはじめました。

しかし、戦後のハンガリーは社会主義(政権)が長く続いたため、元々の彼らが所有していた土地はすべて当時の政権に没収され、国有地にされてしまったのです。


1930年代の面影が残るワインカーヴ

SABARヒルの歴史に想いを馳せつつ、試飲の後はワインカーヴの中を見学することに。
大変重く、まるで太陽のようなカタチをした木彫りの扉を開けると、全身が一気にひんやりとした空気に包まれました。


サバー・ワイナリーのワインカーヴの中の様子です。

レンガ造りのカーヴ内にはステンレス(スティール)タンク、そして木樽が所狭しと並んでいます。

52㎡ほどの小さなワインカーヴだと言うガボール氏。
よく聞くと、このカーヴの内部は1930年代に造られた当時のままであるということでした。


居場所がないワイン、ワイナリー経営の苦労と努力

ワイン(ボトル)がこのように貯蔵されていましたが、良品のワインは毎年、ほとんど完売しているため、このカーヴ内に残るワインのほぼ、ラベリングされていません。
聞けば、それらは醸造過程において温度が高すぎてしまったり、または霜の被害にあったりと、結局、不良品扱いとなり販売にまで至らなかったワインたちでした。

SABARの丘の中腹にあるワインハウス。
現在はキッチンとなっている場所を、ガボール氏が2009年に購入したことから(前述参照)誕生したサバー・ワイナリー。

ようやく8周年を迎えたばかりの新しいワイナリーですが、ノスタルジックな光景と重厚感ある歴史を感じるのは、1930年当時に作られたワインカーヴを当時と変わらず温存し、少しずつ手を加え、修築しながら使い続けているからでしょう。


木樽を選び、こだわることで、複雑な香りと味わいが生まれる

ところで、ワイン愛好家の方なら、ワイン(果汁)の発酵・熟成にかかせない木樽を見ると、興奮するのではないでしょうか。
まったくワイン造りやワインそのものに興味のない方には、退屈な話しかもしれませんが、できれば少しお付き合いください。

サバー・ワイナリーのワインの発酵(熟成)用に貯蔵されている木樽は主に、オーストリア産とハンガリー産の2種類。
trustoak

ピノ・グリ(葡萄品種とワイン名)に使用されているのは、TRUSTと刻印されたハンガリーのブランドのものの木樽。
Woodenbarrelolim

オラスリズリングの発酵・熟成は、オーストリア製品の木樽が使用されていました。

oakRR17

樽の表面にチョークのような白でRRと書かれていますが、それはラインリースリングの意味で、ラインリースリング=白ワインを発酵させている木樽でした。

その木樽一個の中には約300リットルものワイン果汁が入っているなんて、すぐにピンと来ませんよね。
ワインの発酵・長期熟成にかかせない存在である木樽。

それぞれ使用されている木樽に、とても強いこだわりを感じました。


ケークニェリュは、ヴィンテージ木樽を使用

ケークニェリュの樽は、オーストリア産ブランドの木樽。
これらの木樽は9年〜10年目となる(ヴィンテージ)木樽なのだそう。

この絶妙な色合いは、年数を重ねた樽でないと生まれないのかも知れませんね。

使用する木樽にこだわればこだわるほど、ワインの香りと味わいに繊細さと複雑さが生まれ、それが余韻にも表れてくるものです。
先ほどテイスティングした際、特にケークニェリュの香りにたくさんのフレーバーを強く感じましたが、こだわりのヴィンテージ樽を発酵(熟成)用に厳選しているのを見て、(香りが豊かな理由について)納得できました。


ゲストハウスと赤ワイン用の葡萄栽培

ウッドテラスのあるワインハウスより、さらに上にあがると、小さなおうちが見えてきました。
ここは、ワイナリーを訪れるさまざまなゲストの方をお招きする(ゲストハウス)とのこと。

まだ、リノベーション&建設中だったため、軽く見学させていただいた程度でしたが、とてもセンスの良いタイルが貼られていて、完成した状態をまた見に行きたいと思いました。

このゲストハウスの周囲一面に広がる葡萄畑。

同ワイナリーでは現在、ドライタイプの白ワインとロゼワイン、そして、ピノ・グリを原料としてつくるパーリンカのラインナップがありますが、赤ワインももう少しで出荷可能となるそうです。
赤ワイン用の葡萄(品種)栽培は、2012年にカベルネ・フランの栽培をスタートさせたそうですが、その年は不運なことに霜(frost)の被害が甚大で、赤ワインとして販売できたのはわずか290本あまり。

結果としては、ほとんど葡萄を収穫できなかったとのことでした。

そして今年の5月には、ハンガリー原産の赤ワイン用葡萄品種、ケークフランコシュの栽培を開始。
そのケークフランコシュは順調に収穫できれば、2020年ヴィンテージのものから出荷が可能になるとのこと。

ケークフランコシュは、ワイン好きの方であれば、ブルゴーニュ地方のピノ・ノワールを連想してもらうと香りと味わいがイメージしやすいかと思います。


地元の素敵なレストランでインタビュー

サバー・ワイナリー、その1930年代に作られたワインカーヴと発酵熟成に用いられる樽について、また、葡萄畑(Vinyard)の風景を一通りご覧いただきましたが、いかがでしたか?

同ワイナリーに向かう前にも、オーナーさんにインタビューさせていただきました。


サバー・ワイナリーのオーナー(社長)であるガボール・アダム氏。

ご本人いわく、若い頃からWine Enthusiastだったそうで、もともとのご職業は、ワインとは全く無縁の業界。

会社経営のエキスパート、エコノミストとして、ドイツ系企業をはじめ、さまざまな企業の最高財務責任者として会社経営の分野に長きにわたり携わっていたそうです。

lunch

こちらのシーフード料理は、バラトン湖でとれたお魚でしたが、名前を忘れてしまいました。。
トマトソースのリゾットで、大変美味しかったです。

そんな美味しいランチを味わいながら、お話の続きを聞かせていただくと、
(いつもの取材撮影より、今回はずいぶんと贅沢なインタビュー時間をいただくことができました)

大のワイン好きが高じて、40歳からワイナリーをスタートさせたガボール氏。
ですが、ワイナリーの経営、さらに葡萄栽培、ワインの醸造、すべてにおいて専門ではありません。

そこで同氏は、ワイン醸造のエキスパート、栽培のエキスパートと、ワイナリー経営に必要な専門家たちを集め、少数精鋭のチームを結成。

現在は自身を含めた5人のワインエキスパート=ステークホルダーと共同で、また、バダチョニ地域の(ローカル)コミュニティに貢献する活動を行いながら、サバー・ワイナリーを運営されています。

ディナーは白ワインに合う和食を調理し、ふるまうことに

同ワイナリーのインタビュー、取材撮影ということでお邪魔したものの、何から何までゲスト扱いで、ワイナリーの皆様に大変歓待していただいた筆者。(宿泊のホテルまでご招待でした)

手ぶらではまずい、ということもあり、取材が終わった後、ディナーは恥ずかしながら自身の料理をサバー・ワイナリーの皆さんにふるまうことに。

SABARの白ワインにはきっと和食が合うと(取材前のリサーチの際に)確信し、ハンガリーにいながら調達できる和の食材、ということで、あまり時間をかけずに調理ができる親子丼にしてみました。

その際、ワインハウスのキッチンをお借りして調理したのですが、そのキッチンがある一室は、先ほどお伝えしたユダヤ人のご家族が暮らされていた場所だったのだそう。※2
なんだか、元々の土地の所有者さんたちに温かく見守られながら、料理していた気がするのは筆者だけでしょうか。

料理している間、ワイナリーの方が、夕陽がとっても綺麗だから写真を撮っておいたほうがいい、ということで、撮影したのが上の写真。
あまりその感動が伝わらない写真で恐縮ですが、夕陽が沈む光景は、本当に美しかったです。

※2…1970年代に入ってから、Lajos Illés と呼ばれるユダヤ人の男性が、(先祖が暮らしていたであろう)この土地を地元の恊働組合から購入し、取り戻すことに成功しました。そのLajos Illés氏一家がひっそりと暮らしていた小さな家=現在はサバーのワインハウス/Sabar Borházのキッチンがまさにそうだったとは!

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調理を終えて、先ほどテイスティングさせていただいたウッドテラスで、皆さんに、ちょっと見た目の悪い親子丼ですが、SABARのケークニェリュとともに味わって頂きました。(ワカメとツナのサラダも即席で作りました)

ハンガリー人のワイナリーの方々にとっては、親子丼なるものは初めてだったようで、皆さん調理の時からものすごく興味津々でしたが、ありがたいことにすぐに完食してくださり、とても作り甲斐がありました。
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ちなみに、下のメニューは、上の写真左奥に映られている、タマーシュさん(栽培のエキスパート)がお料理されたもの。
とても手慣れていて、見た目も大変素晴らしかったです!

ちなみに親子丼を作る際、鶏肉は同ワイナリーのカベルネ・フラン(赤ワイン)を拝借し、その赤ワインに鶏肉を漬け込んでおいたのですが(下ごしらえ)。
意外に思われるかもしれませんが、赤ワイン効果で鶏肉に深い味わいが生まれて、いっそう美味しく感じられた(手前味噌ですね)のはとても良かったです。

この日は蒸し暑かったせいか、夜もそこまで寒くはならず、写真はありませんが、満点の星空を眺めながら、サバーの白ワインを堪能でき、本当に贅沢なワイナリー取材をさせていただくことができました。
ホテルに戻ってから、プレゼントしていただいたSABARのワインたちを並べて写真を撮ってみました。

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バラトン湖を愛してやまない、スウェーデン人夫妻が営むホテル“Óbester”

今回、宿泊させていただいたのは、スウェーデンを代表する名家具、インテリアがリビングに美しく並ぶ、とても素敵なホテル。

お部屋はこじんまりとしていましたが、隅々にセンスの良さが感じられました。

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朝食時の風景。

コーヒーを入れていただいたカップも、陶器好きの方であればすぐにピンと来るブランドですが、食器ひとつ見ても、個人的に大変好みなホテルでした。

Óbesterのオーナーご夫妻。

彼らはハンガリー人ではなく、スウェーデン人です。

なぜ、スウェーデン人のご家族がこのバダチョニ・エリアでホテルを経営されているのか、尋ねてみると。

もともとご夫妻はバラトン湖が大好きで、毎夏のサマーバカンスは決まって、スウェーデンからハンガリーのバラトン湖に長く滞在されていたそう。

そこで、思い立ってハンガリーに移住、愛するバラトン湖、バラトンエリアのバダチョニでホテルの経営を始められたのです。

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今ではハンガリー語も流暢なご夫妻。

そのため、最初はスウェーデン人であることなど、全く分かりませんでした!

チェックアウトした後は、大変のろーい鈍行電車で、バダチョニの駅からブダペストに戻ること、なんと4時間!
隣国のオーストリアに遊びに行くより、大変長い時間を移動に費やしましたが、それでも得たものは大変大きかったように思えます。

ハンガリーワイナリー探訪、初回はバラトン湖にある白ワインの名産地、バダチョニから。

小さい丘から生まれる、偉大な白ワイン。SABARワイナリー。

大げさかもしれませんが、そんな風に思えるほど、特に大変美味しかったケークニェリュ。

これからも、知られざるハンガリーワインの魅力をレポートすべく、定期的にワイナリー紹介を行っていきますので、どうぞお楽しみに!

取材・撮影・テイスティングノート/©Papp Hideko ブダペスト在住ワインコラムニスト WSET認定Higher Certificate

SABAR ワインをお求めになりたい、または日本に輸入をご検討希望の場合は、FinoMagazinのコンタクトフォーム、またはメールにてお問い合わせください。


 

 

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ブダペスト在住ワイン(とインテリア)コラムニスト。フィノマガジン主宰。ワインアドバイザー(Wine & Spirits Education Trust認定Higher Certificate)。現在はオーストリアのWSETでDiplomaコースに通い、MWの夢をいまだ捨てきれず勉強継続中。大手食品メーカー、ワインインポーターの社員として勤務後、広告業界へ。元博報堂グループ(広告代理店)コピーライター、ディレクター(AD & WEB)、プロモーション・プランナー。現在は出版社や雑誌社をはじめ、さまざまな媒体で執筆業を中心に活動。◎受賞歴: J-wave主催Webビジネス開業支援コンテスト特別賞受賞(企画書制作部門)◎メディア出演歴:湘南ビーチFM(ラジオ局)“ワインのお話”メインレギュラー(約2年)。2016年: amebaTV、abemaNews、ハンガリーのネイル製品ブランドMoyra(モイラ)の日本部門【Moyra Japan】代表。

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